生誕100年 岡本太郎展

●私と太郎●

平日の昼間だというのに、まさに老若男女という言葉がぴったり当てはまる客層で、まるで日曜日かのような混雑。これだけの人が「岡本太郎」に興味を抱いているのかと思うと、彼のカリスマ性を感じる。

一方で、私はというと、これまでに岡本太郎に対して苦手意識を持っていたし、あえて近寄らずにいたのが本当のところ。幼い頃の記憶の中の「なんだかちょっと変な人」というイメージと、「芸術は爆発だ」の言葉のひとり歩きとで、どうしたらいいのか分からない対象だった。けれど、友人の中には太郎から力をもらうという人が少なくないし、太郎、太郎と言っているのがいまいちよく分からなくて、もどかしい思いもあった。そんなわけだから、今回の展覧会は少し太郎に歩み寄ってみようと思って足を運んだのだけど、会場を後にする時には、すっかり彼の世界に飲み込まれている自分がいた。


●エネルギー体●

太郎の絵を前にすると、落ち着かない気持ちになる。多くの画面は、原色に近い色と暗く深い背景色、それらが気の流れのようなタッチで広がっている。やや怖いと感じることもある。

とてつもなく大きなエネルギーを感じる絵ばかり。描いているときの太郎自身のオーラと、今まさに作品を目の前にしている人たちのオーラ、そして描かれた絵が持つ独自のオーラ、それらが入り交じって、絵の具の流れに沿うように画面表面を渦巻いているように感じた。

引きつけられて吸い込まれそうになるのだけど、絵そのものが発している力が大きくて、入り込む隙間がなく跳ね返されてしまう。そういう感覚に落ちた。

これまでに私が「好きだ」と感じた他の作家の作品というのは、割とその世界に入っていけるものが多かったように思う。でも太郎の作品は、それ自体が密なエネルギーの塊で、私はそれを受けとめきることができない。まだ私が小さいから上手く抱えることができないわけだ。


●逆らえない力●

岡本太郎という人は、彼自身の意志を貫いて制作をしてきた人だと思う。作品からそんな気配が濃く漂っている。
そんな太郎の作品の中で、《師団長の肖像》は、まるで呼吸をしていないかのような、何の気配も感じない、死んだような絵に見えた。

一般的に言えば、ごく普通の肖像画。油彩画家が描く、写実的で「上手な絵」と言われるような一枚の絵。
これは、太平洋戦争で徴兵された太郎が、軍の命令によって描かされた絵。

「5年間、私は冷凍されていたような気がする」という、戦争を振り返っての太郎の言葉。5年間、太郎は死んでいたも同然の時間を過ごすことを余儀なくされたのだと思う。

望んでいないのに徴兵され、描きたいものが描けなくなり、軍の集団の規律の中での生活を強いられ、無理矢理に描かされる。あれだけの魂の乗った絵を描いていたはずの人でさえも、抵抗しきれない力。全てのものを飲み込む暗黙の抑止力を一枚の絵の中に感じた。

と同時にふと涙が込み上げてきた。
復員してきたときには、自宅もそれまでの作品も焼失したそうだ。自分の精神を取りあげられ、それまで自分が残してきたものも焼かれてしまうのはどんな気持ちだったろうと想像してみても、あまりにも非情で、どうしても今の私には現実味がもてなかった。

核兵器に対する思いを描いた《明日の神話》にも大きな力を感じるけれど、《師団長の肖像》からは静かな訴えを感じた。人の信念までも奪い取る戦争への嫌悪感に包まれた。


●それで結局のところは●

他にも、日本の風俗の研究だとか、プロダクト商品だとか、舞台美術だとか、太郎の世界の全てにアンテナが傾いている自分に気付く。作品に、というよりも、太郎自身に魅力を感じ始めたのだと思う。考えていることがよくわかるし、言葉もすっと心に入ってくる。私が生きていこうとしている方向性を後押しされているような気分にさえなるほどだ。

しかしながら、やっぱり太郎の作風はあまり好きにはなれない。きっとそれは、「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない。」という太郎の言葉のとおりで、私の好みはキレイで心地よく感じる作品、彼の言う反対のものだからだ。やはり作品の前で、多少の違和感はあっても“すーーーーっ”と穏やかに落ち着けるものが私は好きで、ここでいう違和感は、太郎の言うそれに比べて甘っちょろいものだと思う。彼に言わせてみれば、気の楽にできる作風を逃げの姿勢でもって好いているのかもしれない。でも、私は私で、それでいいと思うからいいのだ。

だからといって、太郎の作品が好きではないのかといえばそうではないし、抱いていた苦手意識はすっかりなくなった。
今の私では、彼の作品を「みる」には、かなり元気なときでないとダメだということにも気付いた。力負けしてしまう。そんなのは久しぶりで、岡本太郎のすごいところは、ここなんだなと思う。

岡本太郎記念館では「生命の樹」を展示。
生命の樹 2011年2月23日(水)→6月26日(日)@岡本太郎記念館



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生誕100年 岡本太郎展
@東京国立近代美術館
2011年3月8日(火)→5月8日(日)
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